「意味を見つける自由」は、誰にも奪えない
──自衛官のキャリア自律とは何か──
一 「自律」できない組織で働くということ
キャリア自律、という言葉がある。
自分のキャリアを自分で考え、主体的に形成していく姿勢のことだ。近年、民間企業でもこの概念が広まり、「社員一人ひとりがキャリアの主体となること」を促す取り組みが増えている。
しかし、自衛官にこの言葉を向けると、どこかしっくりこない反応が返ってくることが多い。
「配置は自分では選べません。」「転勤の時期も、異動の先も、組織が決めます。」「自律と言われても、選択肢がないんです。」
これは言い訳ではない。事実だ。自衛官のキャリアは、組織の必要に基づいて決定される。転職も、定年まで原則として制限される。民間の転職市場を前提に生まれた「キャリア自律」という概念は、そのまま自衛官には当てはまらない部分がある。
では、自衛官にキャリア自律は不可能なのか。私はそう思わない。ただ、「自律」の意味を問い直す必要があると考えている。
二 選択の自由と、意味付けの自由
キャリア自律には、二つの側面がある。
一つは「行動の自律」、すなわち選択の自由だ。どの職場を選ぶか、どのスキルを身につけるか、いつ転職するか。これは外部労働市場への働きかけを前提とした自律だ。
もう一つは「意味付けの自律」、すなわち解釈の自由だ。与えられた状況の中で、自分の経験にどんな意味を見出すか。この仕事は自分の何を育てているのか。この配置は、長い人生の中でどんな意味を持つのか。
民間のキャリア自律論の多くは、前者の「行動の自律」を中心に据えている。しかし、行動の選択が制約されている自衛官にとって、より本質的なのは後者の「意味付けの自律」ではないだろうか。
選択の幅が狭くても、解釈の幅は広い。どんな配置においても、そこに意味を見出すかどうかは、組織には決められない。それは最後まで、自分自身のものだ。
三 意味付けが動機付けを生む
これは精神論ではない。心理学の実証研究が示していることだ。
人間の動機付けを研究したDeci & Ryanは、外からの報酬や罰に依存する「外発的動機付け」より、仕事そのものに意味や充実感を見出す「内発的動機付け」の方が、持続性とパフォーマンスの質において優れていることを示した。そして内発的動機付けの核心には、「自分が自分の行動の主体である」という自律性の感覚があるという。
また、Wrzesniewski & Duttonの研究は、仕事の内容や配置を変えなくても、仕事に対する解釈を能動的に変えるだけで、意味と動機付けを再構成できることを示した。これを「認知クラフティング」と呼ぶ。
つまり、「この配置に意味を見出す」という行為は、単なる前向き思考ではない。自分の動機付けを、内側から組み直す実践的な行為だ。
意味を感じて取り組む人間は、指示を待つだけの人間より、予期せぬ事態にも柔軟に対処できる。創意工夫が生まれる。踏ん張れる。それは個人の充足感にとどまらず、部隊の任務遂行能力にも直結する問題だ。
四 「なぜここにいるのか」という問いを持つ
では、意味付けの自律は、具体的にどう実践するのか。
出発点は、シンプルな問いを持ち続けることだと思う。
「自分はなぜここにいるのか。」
「この経験は、自分の何を育てているのか。」
「ここで学んでいることは、これからの人生でどう生きるのか。」
配置が変わるたびに、この問いを持つ。答えはすぐに出なくていい。問いを持ち続けること自体が、意味付けの習慣を育てる。
キャリア構成理論で知られるSavickasは、「キャリアとは客観的に持つものではなく、経験に意味を与えることで主観的に構築するものだ」と言った。重要なのは、意味は後から構築できるという点だ。過去の配置がどんなに不本意なものであったとしても、今の視点からその経験に意味を見出し直すことは、いつでもできる。
五 一人で考えていては見えないもの
ただし、意味付けの作業は、一人で考えているだけでは限界がある。
人間の経験の多くは「暗黙知」として存在しており、自分では当然すぎて言葉にしたことがない。それが他者との対話を通じて初めて「言葉」になる瞬間がある。「そうか、自分はずっとそれをやりたかったんだ」と気づく瞬間が。
上司との面談でもいい。同期との語り合いでもいい。専門のキャリアカウンセラーとの対話でもいい。誰かに話すことで、自分の経験の意味が突然鮮明になることがある。
自己開示をすることで他者からのフィードバックを得られ、「自分では気づいていなかった自分」が見えてくる。これがジョハリの窓で言う「開放の窓を広げる」ということだ。自己理解は、対話によって深まる。
六 意味付けの自由は、誰にも奪えない
配置は自分で選べない。転勤も、異動の時期も、組織が決める。
それは変えられない事実だ。
しかし「この経験をどう意味付けるか」は、組織には決められない。どんな境遇であっても、その中に何かを見出そうとするかどうかは、自分が決める。
これが、私が考える自衛官のキャリア自律の本質だ。選択の自由が制約されても、解釈の自由は残る。意味付けの自由は、誰にも奪えない。
どんな配置も、意味を見出せばキャリアになる。意味のない経験など、ひとつもない。
そう信じることが、今日の仕事を少しだけ豊かにし、長い年月をかけて、その人の人生の色を変えていく。